第17回ハーツウインズ定期公演 2021.9/30プログラム雑記 by OSAWA

マーチ王と呼ばれた作曲家とは

Carl Teike 1864-1922

カール・タイケ(1864-1922)はドイツの吹奏楽作曲家で、ドイツ軍楽隊のために100曲を超えるマーチを作曲しました。同じく米国のジョン・フィリップ・スーザ(1854-1932)も米国海兵音楽隊のために100曲を超えるマーチを書いています。二人は共に同じ時代を生き、軍楽隊に多くの名曲を残したのです。

軍楽隊について

軍楽隊は世界各国によって違いその国柄を表していると言えます。その違いはまず楽器編成にあります。大きく分けてドイツ式、フランス式、そして英国式に分けられます。ドイツ式は金管のバルブがロータリー式で、テナーホーンやフリューゲルなどビューグル楽器を使います。フランス式は金管のバルブがピストン式で、隣国ベルギーで発明されたサクソフォンやサクソホルンを使います。英国式はほぼフランス式と同じです。米国は英国式を導入しました。日本国は明治維新にイギリス式軍楽隊から始まりフランス式を導入を経て確立されています。米国教育機関は1950年頃から吹奏楽を合奏授業として音楽カリキュラムに導入。これにより吹奏楽専門の教育システムが飛躍的に研究され、合奏教材や教育的な音楽作品が盛んに作られます。戦後の日本は米国を手本にして教育現場での吹奏楽が盛んになり現在に至るのです。

さて、軍楽隊の起源は西暦1500年頃のオスマントルコの軍楽隊メフテルハーネです。これは世界最古の現存する楽団で、現在も同じスタイルで聴くことが出来ます。この楽団の編成は、トランペット、オーボエ、大太鼓、太鼓、シンバルと男性歌です。打楽器と単旋律のみの迫力の音で敵を圧倒しながら領土を広げていました。この音による効果は絶大なものがありオスマントルコは軍楽隊の音でヨーロッパ領土を勝ち取ったとも言われています。この影響でヨーロッパ諸国は国家の威信をかけて独自のスタイルで軍楽隊を保有することになるのです。そして行進曲は軍楽隊だけのものでなく音楽の一つのスタイルとして音楽文化に浸透していきます。ピアノ音楽、室内楽、オペラ、シンフォニーなどに使われるようになります。このようにメフテルハーネはヨーロッパ音楽に多大な影響を与えたのです。

行進曲はベートーヴェンやモーツアルトの作品のように純音楽として鑑賞する作品があります。また今回のように軍楽隊に書かれたものを純音楽として演奏することもあります。ベートーヴェン第九の終楽章で出てくる大太鼓、シンバルやモーツアルトのトルコ行進曲は、オスマントルコがウィーン近郊まで攻めて来なかったら誕生していなかったかも。


ノーマン・デロ・ジョイオ/ハイドンの主題による幻想曲

ハイドンの主題は昔から有名作曲家の題材になっていて、ハイドン(1732-1809ウイーン)を敬愛するブラームス(1833-1897ウイーン)は「ハイドンの主題による変奏曲」を書いていますね。この管弦楽曲は美術館にある織物、陶芸品のような芸術作品という印象です。使用されるハイドンの主題は、聖アントニウスのコラールとして有名です。デロ=ジョイオはそれとは違うピアノソナタの主題を使いました。実はこのピアノ曲、指揮の勉強で大変にお世話になった曲です。斎藤秀雄指揮教程という指揮者の教本がありますが、このハイドンピアノ曲は「引っ掛け」というテクニックを覚えるための練習曲なのです。予備拍が8分音符で始まる曲に使うテクニックなのです。2拍子は「1と2と」ですが、この「と」から始まる音に「引っ掛け」を使います。なんだか書くと難しいですよね。冒頭から何回も使用します(引っ掛け大会)を要チェックしてみてください。

斎藤秀雄 指揮法教程
Haydn piano sonata

話を本題に戻しましょう。

Norman Dello Joio 1913-2008

教会オルガン奏者だったデロ=ジョイヨは、ナチスドイツから逃れてアメリカに亡命していた作曲家ヒンデミットに作曲を師事。当時無調性音楽が流行る中、それに迎合しないで自分の音楽性を一番大切に守るよう教えられたと言われています。オペラ、バレエや管弦楽曲が有名ですが、TVドキュメンタリー音楽で、ピューリッツア賞も受賞しています。ハイドンファンタジーが吹奏楽では代表作。他には、中世の主題による変奏曲 Variants on a Mediaeval Tune (1963)「ルーヴル」からの情景 Scenes from “TheLouvre”(1966)、アベラールの歌 Songs of Abelard (1969)、サティリック・ダンス(風刺的な舞曲)Satiric Dances(1975)などがあります。どの曲もヒンデミットの教えを守った個性的で魅力ある作品です。曲名がとても興味深いですね。

さて、ハイドンはとてもユニークな人で、人を飽きさせない天才作曲家という印象があります。私の師匠がハイドンが大好きで、「ハイドンを楽しく指揮できなければ、君は退屈音楽生産機だよ」と厳しく言われたものです。

Haydn (1732-1809)

デロ=ジョイオはそのハイドンのピアノソナタのテーマを自由奔放に展開させます。これはまさにファンタジーです。しかも高らかにハイドンをリスペクトして「ハイドン万歳」が聞こえてくるようです。特にファンタジーⅡAdagioのゆったりした壮大なスケールの大きさは圧巻です。

曲は主題と3つのファンタジーから構成されています。

THEME (Allegro scherzando)

FANTSY Ⅰ(Allegro)

FANTSY  Ⅱ(Adagio)

FANTSY  Ⅲ(Allegro molto spiritoso)

連続して演奏します。

Paul Hindemith ポール・ヒンデミットはお好きですか。

山を愛する登山家でもあった

20世紀ドイツを代表する作曲家。楽器を練習する人でさらに音大を目指す人には必ず彼の作品を演奏する機会がやってきます。玄人好みの作曲家という印象です。ヒンデミット(1895-1963)はオーケストラで使われる全ての楽器にソロ曲を作曲しています。私も大学一年の試験で初めて「テューバのためのソナタ」に遭遇、当時は管弦楽曲「画家マティス」を一度N響定期で聴いた程度の初心者でした。その頃の自分のレコード棚には名前がまだ無い作曲家でした。

オーケストラのTuba奏者になってからは、徐々にCDとスコアが増えてきましたが、「ウェーバーの主題による交響的変容」に出会った時の嬉しさ、次に「画家マティス」で完全に虜になりました。これらのヒンデミット作品は演奏者からすると、とても楽しいオイシイ作品なのです。全ての楽器の機能を熟知しているので効果的なのです。このように演奏家が好む作品を提供しているというのがヒンデミットの印象です。これはヒンデミットが自らビオラ奏者であったことにも由来していると思います。ビオラはヴァイオリンとチェロに挟まれて内声を担当。高音も低音もしっかりバランスをとって演奏する必要があります。目立たないけれどとても重要な立場です。私は低音楽器なので、いつも上声部の響きを聴いていました。余談ですが指揮者を目指す場合、自身が弾くオーケストラ楽器では何が一番勉強したら良いかという問いに低音楽器のチェロ、コントラバスという解答をよく聞きます。Tubaはハイドン、モーツアルト、ベートーヴェンには無いのでダメですね。

さあ、本日の演奏者の皆さんはヒンデミットのソナタを経験した名手達です!「吹奏楽の為の交響曲」の各楽器の効果的な妙技をじっくりとお楽しみください。

1楽章 Moderately fast,with vigor

2楽章 Andante grazioso

3楽章 Fugue

アルフレッド・リード生誕100年アニバーサリー(1921-2005)

今年はアニバーサリーということでアルフレッド・リード作品をプログラムに入れるコンサートが非常に多いです。それもオールリードや前半又は後半をリード特集が目立ちます。吹奏楽の演奏会でこんなに人気のある作曲家は他にいないでしょう。ハーツ・ウインズも後半をリードでまとめましたが、私個人の指揮の履歴でもアルフレッド・リードがホルストと並んで最も多く指揮しています。始まりは吹奏楽指導を始めた若い頃からです。一番の思い出は音大を卒業してすぐの頃、東京の私立高校でアルメニアンダンスパートⅡを顧問の代わりにコンクールで指揮する事になっていたのです。しかしプログラムには顧問の名前が書いてあり届出のミスで私の名前がないのです。舞台袖で入場直前に係からこのまま出場すると失格になると言われました。慌てて客席に来ていた顧問を呼び出して、急遽その場を切り抜けたのです。顧問は前日まで所用で北海道にいてほぼ初見での指揮、しかもジーパン私服でした。しかし高校生は動揺することなく私が指導したリハーサル通りの演奏を披露して都大会を突破、さらにその年の全国大会では金賞を受賞。しかも5年連続金賞達成の忘れられない特別な年になりました。

さて、今回の3曲はどれもリードの人気曲ですが、特に人気の高い「音楽祭のプレリュード(1957)」は私が高校2年の吹奏楽コンクール(1970)の課題曲です。この曲は今でも体に隅々まで入り込んでいて、私の吹奏楽人生における最愛の曲の一つです。

魅力的なハーモニーによるファンファーレで開始、終始毅然とした音楽は希望に満ちており、これから始まろうとする物語に期待を抱く、まさに前奏曲というに相応しい曲です。

リードのバッハ編曲はとても良い響きがします。有名曲を編曲する場合、原曲の良さを損なうことなくしかも効果的な楽器法で書かなくてはなりません。リードの編曲はその職人的な感性でバッハの響きを吹奏楽で再現しています。

第2組曲(1971)は誰もが一度は演奏したい曲の一つとしてとても人気がある曲です。副題メキシカーナ(メキシコ風)とあるようにとても明るく楽しいラテン音楽のルンバ、ソン、タンゴ、パソドブレで各章書かれています。若い頃のリードは軍楽隊で編曲を多く手掛ける仕事をしていました。軍楽隊では教会音楽や管弦楽そしてポップスやJazz、ラテンなどありとあらゆるジャンルから多くの編曲を毎日行っていました。その苦労のお陰で吹奏楽で演奏できるラテン音楽を書き上げたのです。

Great Cuban bandleader Arsenio Rodriguez

1.Son Montunoはキューバ音楽のソンのスタイルでクラベス、マラカス、ギロ、ティンバレスなどが活躍。

2.Tangoはブラジル音楽の遅めのタンゴで、ゆったりとした魅惑的な男女の踊りを表現します。

3.Guarachaは再びキューバ音楽で、ラテンパーカッションのゆったりとした2拍子のソンに乗ってクラリネットセクションがユニークでリラックスした絶妙な味わいを出します。

4.Paso Doble(Ala corrida!)はスペインの闘牛のことで、古くから伝わる人間と闘牛の戦いを讃えた音楽になっています。非常に熱情的なスペイン音楽がリードの卓越した作曲によって表されています。後に書かれた人気曲「エル・カミーノ・ノアレ」(1985年)に通じるものがあります。

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