第17回ハーツウインズ定期公演 2021.9/30プログラム雑記 by OSAWA

マーチ王と呼ばれた作曲家とは

Carl Teike 1864-1922

カール・タイケ(1864-1922)はドイツの吹奏楽作曲家で、ドイツ軍楽隊のために100曲を超えるマーチを作曲しました。同じく米国のジョン・フィリップ・スーザ(1854-1932)も米国海兵音楽隊のために100曲を超えるマーチを書いています。二人は共に同じ時代を生き、軍楽隊に多くの名曲を残したのです。

軍楽隊について

軍楽隊は世界各国によって違いその国柄を表していると言えます。その違いはまず楽器編成にあります。大きく分けてドイツ式、フランス式、そして英国式に分けられます。ドイツ式は金管のバルブがロータリー式で、テナーホーンやフリューゲルなどビューグル楽器を使います。フランス式は金管のバルブがピストン式で、隣国ベルギーで発明されたサクソフォンやサクソホルンを使います。英国式はほぼフランス式と同じです。米国は英国式を導入しました。日本国は明治維新にイギリス式軍楽隊から始まりフランス式を導入を経て確立されています。米国教育機関は1950年頃から吹奏楽を合奏授業として音楽カリキュラムに導入。これにより吹奏楽専門の教育システムが飛躍的に研究され、合奏教材や教育的な音楽作品が盛んに作られます。戦後の日本は米国を手本にして教育現場での吹奏楽が盛んになり現在に至るのです。

さて、軍楽隊の起源は西暦1500年頃のオスマントルコの軍楽隊メフテルハーネです。これは世界最古の現存する楽団で、現在も同じスタイルで聴くことが出来ます。この楽団の編成は、トランペット、オーボエ、大太鼓、太鼓、シンバルと男性歌です。打楽器と単旋律のみの迫力の音で敵を圧倒しながら領土を広げていました。この音による効果は絶大なものがありオスマントルコは軍楽隊の音でヨーロッパ領土を勝ち取ったとも言われています。この影響でヨーロッパ諸国は国家の威信をかけて独自のスタイルで軍楽隊を保有することになるのです。そして行進曲は軍楽隊だけのものでなく音楽の一つのスタイルとして音楽文化に浸透していきます。ピアノ音楽、室内楽、オペラ、シンフォニーなどに使われるようになります。このようにメフテルハーネはヨーロッパ音楽に多大な影響を与えたのです。

行進曲はベートーヴェンやモーツアルトの作品のように純音楽として鑑賞する作品があります。また今回のように軍楽隊に書かれたものを純音楽として演奏することもあります。ベートーヴェン第九の終楽章で出てくる大太鼓、シンバルやモーツアルトのトルコ行進曲は、オスマントルコがウィーン近郊まで攻めて来なかったら誕生していなかったかも。


ノーマン・デロ・ジョイオ/ハイドンの主題による幻想曲

ハイドンの主題は昔から有名作曲家の題材になっていて、ハイドン(1732-1809ウイーン)を敬愛するブラームス(1833-1897ウイーン)は「ハイドンの主題による変奏曲」を書いていますね。この管弦楽曲は美術館にある織物、陶芸品のような芸術作品という印象です。使用されるハイドンの主題は、聖アントニウスのコラールとして有名です。デロ=ジョイオはそれとは違うピアノソナタの主題を使いました。実はこのピアノ曲、指揮の勉強で大変にお世話になった曲です。斎藤秀雄指揮教程という指揮者の教本がありますが、このハイドンピアノ曲は「引っ掛け」というテクニックを覚えるための練習曲なのです。予備拍が8分音符で始まる曲に使うテクニックなのです。2拍子は「1と2と」ですが、この「と」から始まる音に「引っ掛け」を使います。なんだか書くと難しいですよね。冒頭から何回も使用します(引っ掛け大会)を要チェックしてみてください。

斎藤秀雄 指揮法教程
Haydn piano sonata

話を本題に戻しましょう。

Norman Dello Joio 1913-2008

教会オルガン奏者だったデロ=ジョイヨは、ナチスドイツから逃れてアメリカに亡命していた作曲家ヒンデミットに作曲を師事。当時無調性音楽が流行る中、それに迎合しないで自分の音楽性を一番大切に守るよう教えられたと言われています。オペラ、バレエや管弦楽曲が有名ですが、TVドキュメンタリー音楽で、ピューリッツア賞も受賞しています。ハイドンファンタジーが吹奏楽では代表作。他には、中世の主題による変奏曲 Variants on a Mediaeval Tune (1963)「ルーヴル」からの情景 Scenes from “TheLouvre”(1966)、アベラールの歌 Songs of Abelard (1969)、サティリック・ダンス(風刺的な舞曲)Satiric Dances(1975)などがあります。どの曲もヒンデミットの教えを守った個性的で魅力ある作品です。曲名がとても興味深いですね。

さて、ハイドンはとてもユニークな人で、人を飽きさせない天才作曲家という印象があります。私の師匠がハイドンが大好きで、「ハイドンを楽しく指揮できなければ、君は退屈音楽生産機だよ」と厳しく言われたものです。

Haydn (1732-1809)

デロ=ジョイオはそのハイドンのピアノソナタのテーマを自由奔放に展開させます。これはまさにファンタジーです。しかも高らかにハイドンをリスペクトして「ハイドン万歳」が聞こえてくるようです。特にファンタジーⅡAdagioのゆったりした壮大なスケールの大きさは圧巻です。

曲は主題と3つのファンタジーから構成されています。

THEME (Allegro scherzando)

FANTSY Ⅰ(Allegro)

FANTSY  Ⅱ(Adagio)

FANTSY  Ⅲ(Allegro molto spiritoso)

連続して演奏します。

Paul Hindemith ポール・ヒンデミットはお好きですか。

山を愛する登山家でもあった

20世紀ドイツを代表する作曲家。楽器を練習する人でさらに音大を目指す人には必ず彼の作品を演奏する機会がやってきます。玄人好みの作曲家という印象です。ヒンデミット(1895-1963)はオーケストラで使われる全ての楽器にソロ曲を作曲しています。私も大学一年の試験で初めて「テューバのためのソナタ」に遭遇、当時は管弦楽曲「画家マティス」を一度N響定期で聴いた程度の初心者でした。その頃の自分のレコード棚には名前がまだ無い作曲家でした。

オーケストラのTuba奏者になってからは、徐々にCDとスコアが増えてきましたが、「ウェーバーの主題による交響的変容」に出会った時の嬉しさ、次に「画家マティス」で完全に虜になりました。これらのヒンデミット作品は演奏者からすると、とても楽しいオイシイ作品なのです。全ての楽器の機能を熟知しているので効果的なのです。このように演奏家が好む作品を提供しているというのがヒンデミットの印象です。これはヒンデミットが自らビオラ奏者であったことにも由来していると思います。ビオラはヴァイオリンとチェロに挟まれて内声を担当。高音も低音もしっかりバランスをとって演奏する必要があります。目立たないけれどとても重要な立場です。私は低音楽器なので、いつも上声部の響きを聴いていました。余談ですが指揮者を目指す場合、自身が弾くオーケストラ楽器では何が一番勉強したら良いかという問いに低音楽器のチェロ、コントラバスという解答をよく聞きます。Tubaはハイドン、モーツアルト、ベートーヴェンには無いのでダメですね。

さあ、本日の演奏者の皆さんはヒンデミットのソナタを経験した名手達です!「吹奏楽の為の交響曲」の各楽器の効果的な妙技をじっくりとお楽しみください。

1楽章 Moderately fast,with vigor

2楽章 Andante grazioso

3楽章 Fugue

アルフレッド・リード生誕100年アニバーサリー(1921-2005)

今年はアニバーサリーということでアルフレッド・リード作品をプログラムに入れるコンサートが非常に多いです。それもオールリードや前半又は後半をリード特集が目立ちます。吹奏楽の演奏会でこんなに人気のある作曲家は他にいないでしょう。ハーツ・ウインズも後半をリードでまとめましたが、私個人の指揮の履歴でもアルフレッド・リードがホルストと並んで最も多く指揮しています。始まりは吹奏楽指導を始めた若い頃からです。一番の思い出は音大を卒業してすぐの頃、東京の私立高校でアルメニアンダンスパートⅡを顧問の代わりにコンクールで指揮する事になっていたのです。しかしプログラムには顧問の名前が書いてあり届出のミスで私の名前がないのです。舞台袖で入場直前に係からこのまま出場すると失格になると言われました。慌てて客席に来ていた顧問を呼び出して、急遽その場を切り抜けたのです。顧問は前日まで所用で北海道にいてほぼ初見での指揮、しかもジーパン私服でした。しかし高校生は動揺することなく私が指導したリハーサル通りの演奏を披露して都大会を突破、さらにその年の全国大会では金賞を受賞。しかも5年連続金賞達成の忘れられない特別な年になりました。

さて、今回の3曲はどれもリードの人気曲ですが、特に人気の高い「音楽祭のプレリュード(1957)」は私が高校2年の吹奏楽コンクール(1970)の課題曲です。この曲は今でも体に隅々まで入り込んでいて、私の吹奏楽人生における最愛の曲の一つです。

魅力的なハーモニーによるファンファーレで開始、終始毅然とした音楽は希望に満ちており、これから始まろうとする物語に期待を抱く、まさに前奏曲というに相応しい曲です。

リードのバッハ編曲はとても良い響きがします。有名曲を編曲する場合、原曲の良さを損なうことなくしかも効果的な楽器法で書かなくてはなりません。リードの編曲はその職人的な感性でバッハの響きを吹奏楽で再現しています。

第2組曲(1971)は誰もが一度は演奏したい曲の一つとしてとても人気がある曲です。副題メキシカーナ(メキシコ風)とあるようにとても明るく楽しいラテン音楽のルンバ、ソン、タンゴ、パソドブレで各章書かれています。若い頃のリードは軍楽隊で編曲を多く手掛ける仕事をしていました。軍楽隊では教会音楽や管弦楽そしてポップスやJazz、ラテンなどありとあらゆるジャンルから多くの編曲を毎日行っていました。その苦労のお陰で吹奏楽で演奏できるラテン音楽を書き上げたのです。

Great Cuban bandleader Arsenio Rodriguez

1.Son Montunoはキューバ音楽のソンのスタイルでクラベス、マラカス、ギロ、ティンバレスなどが活躍。

2.Tangoはブラジル音楽の遅めのタンゴで、ゆったりとした魅惑的な男女の踊りを表現します。

3.Guarachaは再びキューバ音楽で、ラテンパーカッションのゆったりとした2拍子のソンに乗ってクラリネットセクションがユニークでリラックスした絶妙な味わいを出します。

4.Paso Doble(Ala corrida!)はスペインの闘牛のことで、古くから伝わる人間と闘牛の戦いを讃えた音楽になっています。非常に熱情的なスペイン音楽がリードの卓越した作曲によって表されています。後に書かれた人気曲「エル・カミーノ・ノアレ」(1985年)に通じるものがあります。

ハーツウインズ第17回定期公演

ハーツウインズの公演案内です。
今回は、お陰様でAFF文化庁助成公演になりました。
どうぞ「名曲コレクション②」をお楽しみ下さい。

●行進曲「ツェッペリン伯爵」/タイケ
●ハイドンの主題による幻想曲/デロ=ジョイヨ
●吹奏楽の為の交響曲Bdur/ヒンデミット
●アルフレッド・リード生誕100年
音楽祭のプレリュード
羊は安らかに草を食み「JSバッハ/カンタータ208より編曲版」
第二組曲「ラテンメキシコ風」

チケット購入は、Hearst winds official websiteで取り扱います。http://heartswinds.mystrikingly.com

洗足学園音楽大学ブルータイ ウインドアンサンブル

ブルー・タイ ウインド・アンサンブル演奏会

プログラム

W.H.シューマン/ジョージ・ワシントン・ブリッジ
William Howard Schuman (1910-92) // George Washington Bridge

M.グールド/吹奏楽のためのバラード
Morton Gould (1913-96) // Ballad for band

J.C.バーンズ/パガニーニの主題による幻想変奏曲
James Charles Barnes (b.1949) // Fantasy Variations on a Theme by Niccolo Paganini

J.F.A.イベール (編曲:天野正道)/祝典序曲
Jacques François Antoine Ibert (1890-1962) arr. Masamichi Amano // Ouverture de Fête

真島 俊夫/三つのジャポニズム
Toshio Mashima (1949-2016) // Les Trois Notes du Japon

出演者

演奏:洗足学園音楽大学 ブルー・タイ ウインド・アンサンブル

指揮:大澤 健一

★本公演はコロナ感染予防のため一般公開はしておりません。関係者対象の演奏会になります。

1.鶴が舞う La dance des grues
2.冬の川  La rivière Enneigee
3.祭り  La fete du feu

吹奏楽合奏の基礎 動画公開

ベーシックバンドレパートリー研究会の動画を一般公開しましたので、是非ご覧ください。
また、チャンネル登録も宜しくお願いします。

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吹奏楽合奏の基礎
第一回 吹奏楽の始まり

第二回 ウインドアンサンブル


第三回 作品へのアプローチ

第四回 リハーサル、本番での心得

ハーツウインズ 第16回定期演奏会 プログラムノート   解説大澤健一

フレックス・メンデルスゾーン・バルトルディ:管楽のための序曲ハ長調 作品24

Felix Mendelssoohn Bartholdy :Overture fur Harmoniemusik in C dur op.24

メンデルスゾーン(1809-1847)はモーツアルト(1756-1791)と同じように幼少時から演奏や作曲を披露する才能あふれる神童と言われていました。代表作にはメンコンと呼ばれ親しまれる「ヴァイオリン協奏曲」やピアノ曲「無言歌」あります。また管弦楽曲では「夏の夜の夢」「フィンガルの洞窟」そして交響曲第3番「スコットランド」4番「イタリア」が人気があります。

 生地ハンブルクから移動したベルリンの生活は、音楽的環境に非常に恵まれていました。自宅サロンには、当時の著名な文化人が良く招かれて集まっていました。その家庭の様子は「ヨーロッパが彼らの居間にやって来る」と言われたほどです。そして両親が組織する私設の管弦楽団のために、12歳から14歳の間に12曲の「弦楽のための交響曲」を書いています。15歳になると管弦楽編成の「交響曲第1番」を書き上げました。そして名曲「夏の夜の夢」序曲は16歳の時の作品です。あまりの早熟な音楽経歴ですが、12歳頃の肖像画を見るとその美少年ぶりに再度驚きです。

 神童フェリックス君の音楽の礎になっているのは、大叔母ザラ・レヴィの存在があるとされています。ザラは大バッハの息子W.F.バッハに師事した鍵盤楽器奏者でバッハの楽譜研究家でした。ザラはバッハ「マタイ受難曲」の写譜スコアを彼の14歳のクリスマスプレゼントとして贈ります。神童フェリックスは、このスコアを大切に研究し、20歳の時にベルリンにてマタイ受難曲の公開演奏会を行いました。これはバッハ死後一世紀あまりも忘れられ演奏されていなかった名曲の復活となる偉業でした。

 さて、メンデルスゾーン家は父が銀行家で、大叔母や姉は鍵盤楽器奏者という恵まれた環境でしたが、夏の避暑旅行の温泉場で初めて耳にした管楽の編成と音楽に大変に興味を抱きました。帰宅してから同じ編成ですぐさま書き上げた曲が、今回演奏する序曲です。交響曲1番と同じ15歳の作品です。モーツアルトもドイツ旅行中にマンハイムでクラリネットの音に初めて出会い魅了された記録があります。 序曲ハ長調は、モーツァルトのセレナーデ10番(13管楽器によるセレナーデ)と同様に純音楽としての管楽合奏の貴重な作品です。

原曲版スコア        

原曲スコアでは現在一般に使われなくなった時代楽器(古楽器)があります。

Clarinetti in F, ヘ長調クラリネットClarinetti in C,ハ長調クラリネットCorni di Bassett バセットCorno Basso (Ophicleide)オフィクレイドこれらは現在では順にE♭Clarinet、B. Clarinet、Bassett horn or Alto Clarinet、Tenor tuba or Eurphoniumで演奏します。また原曲は24人編成です。時代楽器による演奏の特徴は、現代の進化した楽器では出せない素朴な音質、ニュアンス、音量にあります。これを正確に再現するには木管、金管、打楽器すべてを時代楽器で揃えなければなりません。また演奏会場は木造建築で100~200席が理想でしょう。

本日使用楽譜は、Felix Greissleによる吹奏楽版ですが、さらに私が手を加えた形で演奏いたします。若干15歳の作品は若さに溢れた瑞々しさとバロック、古典音楽を充分に踏襲した音楽として現代に蘇ります。

グスタフ・ホルスト:吹奏楽のための第1組曲変ホ長調/吹奏楽のための第2組曲へ長調

Guatav Holst : First Suite in E♭for Millitary Band op.28 no.1Second Suite in F for Millitary Band op.28 no.2

20世紀初頭のイギリス軍楽隊におけるレパートリーはファンファーレや行進曲、管弦楽曲の編曲などに限られていました。そこで1909年に陸軍音楽学校の司令官から自国の作曲家による質の高い楽曲の要望がありました。当時ホルスト(1874-1934)はトロンボーン奏者としてオーケストラや市民吹奏楽団で活動していたことから、吹奏楽に興味があったため作曲を行ったと言われています。

さて、この二つの組曲の自筆譜の所在が1970年まで不明であった為、今日まで様々な版が存在しています。クラシック名曲といわれるものでは、原典版、校訂版など同じ曲でも数種類の楽譜が存在すること多々ありますが、吹奏楽一番の名曲もそうであったわけです。

1.自筆譜。1970年まで不明。現在大英博物館所蔵。

2.1921年版:コンデンススコアとパート譜のみ。フルスコア無し。

3.1948年版:アメリカスクールバンド用に編成が拡大される。アルトクラリネット、フリューゲルホルンが追加された。バリトン(金管)が省かれる。

4.1984年版:イギリス作曲家ホルスト研究家コリン・マシューズによる校訂版。アーティケレーションの見直しがされたが、自筆譜に無いバリトンサックス、バスサックスが追加される。ホルストの娘イモンジュ(指揮者)も参与。マシューズはホルストの代表作「惑星」の追加曲として冥王星(1930年に発見されたが、2006年に準惑星に変更)を作曲している。

5.2005年版:吹奏楽の巨匠フレデリック・フェネルの解釈を基にしたLudwig社版。ホルスト組曲の演奏とレコーデイングは最多であり、独自の演奏解釈(アーティケレーションの付加)から、ホルスト作品をこよなく愛する姿勢が伝わる。

6.2013年版:日本人作曲家、伊藤康英氏による原典復刻版。大英博物館所蔵の自筆譜を基に今までの経緯を踏襲し、新たな楽譜(第2組曲に未公表だったMarchを追加)を揃えた校訂版

今回の演奏は4~6版を参考にしていますが、特に私が共演経験した生前のフレデリック・フェネル指揮での実演奏によるところが大きいです。

First Suiteの魅力は、その見事な主題の展開手法です。1楽章冒頭のシャコンヌのテーマは16回繰り返されますが、その一つ一つは見事な変化を展開します。このテーマは2楽章インテルメツォへ継承され、軽快で快活な新たな音楽として生まれ変わります。さらに3楽章Marchでは、主題音形の提示から伝統的なブリティシュスタイルバンドへ展開し、中間部の威風堂々とした愛国歌を彷彿とさせる旋律に発展し、さらに壮大な終結へ導きます。シャコンヌにおける主題の展開を印象付けるために全楽章休みなしで続けて演奏することが、指示されています。

Second Suiteの魅力は、全てイギリス民謡からできている事です。2歳年上だった最も親しい作曲家ヴォーン・ウィリアムスイギリス民謡組曲、グリーンスリーブス幻想曲などが有名)の強い影響で、自国の民謡を収集して作曲したのです。これは後の吹奏楽作曲のお手本となりました。ゴードン・ジェイコブ(ウィリアムバード組曲)やP.グレインジャー(リンカーシャの花束)などに継承されました。

1.March 舞曲(Morris Dance)と4つの民謡からできている。1.Glory Shears、2.Blue eyed stranger, 3.SwanseaTown,(歌詞参照) 4.Claudy Banks。

2.無言歌 Song without Words ‘I’ll Love My Love’ 結婚を反対された少女の、理不尽を悲しむ恋歌 。

3.鍛冶屋の歌 The Song of Blacksmith 元気な鍛冶屋の歌。男声コーラス「6つの民謡合唱曲」にSwansea Town, I’ll Love My Love とともに含まれている。

4.ダーガーソンによる幻想曲 ‘Fantasia in the ‘Dargason’ ダーガーソンという古い循環旋律(26回反復)とイングランド民謡グリーンスリーブスを感動的に重ねた曲。後に弦楽合奏曲(セントポール組曲)として単曲で発表した本人お気に入りの曲。

6つの民謡合唱曲から歌詞を抜粋 

Swansea Town     
ああ元気でいておくれ僕のナンシー 
何度も何度もさよならを言うよ  
僕は海原をまた越えていく 
愛しているのは君だけだだ 希望はすてない  
懐かしのスワンシータウンに帰ってくるよ
I Love My Love 
戸外を歩く春の夕暮れ  
病棟からは 少女の悲しい声 手を鎖に繋がれて、こう言ったのだった
「あの人を愛しているわ だって私はわかるの あの人が私を愛していること」
The Song of Blacksmith 
鍛冶屋がわたしに声をかけてきた 9か月もよ 
彼は私のハートに勝ったの 手紙を書いてきた 
手には金づち 力強く巧みに 体中に火花をちらして

ショスタコーヴィチ:ステージオーケストラのための組曲から   March WaltzⅡ DanceⅠ

Dmitri Shostakovichi:Suite of Variety Stage Orchestra

20世紀ロシアを代表する作曲家の一人ドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906-1975)は、15の交響曲や歌劇、バレエ、映画などに作品を残しています。若いころからその音楽的才能をいかして、早い時期から作曲、演奏活動を行っていました。勤労学生のころは映画館のスクリーンに合わせてピアノを即興で弾く仕事など生活のために行っていた事もあります。彼の回顧録(ショスタコーヴィチの証言)には、ロシア音楽を支えていた大作曲家グラズノフやリムスキー・コルサコフ、そしてストラヴィンスキーまた同期だったプロコフィエフなどが出てきますが、コルサコフ以外は自由を求めて亡命しています。当時のロシア政府はスターリンによる共産・社会主義(恐怖政治や全体主義)のため芸術文化にも厳しい規制がありました。特に西側で流行っていた前衛芸術は批判の的でした。18歳で書いた交響曲第1番の成功で若くしてその才能が認められていたショスタコーヴィチでしたが、つにに30歳の時に発表した「ムツェンスクのマクベス夫人」楽劇が前衛的だと政府機関の厳しい批判にさらされます。この楽劇はスターリン死去するまで上演できず、また同時期に書いた交響曲第4番は同じ運命をたどりました。この事件から体制に認められる作曲活動になるのですが、ショスタコーヴィチの凄い所は一見ロシア政府を称賛しているようでいて、その音楽的内容は奥深く意味深く、実はその逆を訴えるという、天才作曲家のなせる業で第5番以降の交響曲を発表しました。社会主義ロシアが起こした数々の革命戦争による犠牲者への鎮魂歌を書くことが、彼の音楽家としての使命だったのです。「私の交響曲は墓標である」(回顧録より)

さて、20世紀初頭のヨーロッパ音楽は、フランスパリがその栄華を誇っていましたがそういった西側の文化に敏感だったのはロシアの若き作曲家も同様です。そこにはアメリカの作曲家ガーシュインによるJazzを取り入れた魅力的な新しい音楽が流行っていました。ラヴェルやストラヴィンスキーもガーシュインに強く影響されています。ロシアでの大衆音楽(ミュージックホール、ダンスホールなどの娯楽音楽)についても、政府機関が干渉するのでショスタコーヴィチは、お手本になるような音楽を書くことになります。本来のジャズの要素としてのシンコペーション、ブルーノート、スイングは使わずに書かれました。マーチやポルカの様な形式です。当時の社会主義国家における粛清の日常に、幸せで明るい希望を感じることのできるように書かれたのでしょう。コロナ禍で疲弊した社会にも必要ですね!ショスタコーヴィチ様ありがとう♡

Jazz組曲2番は、全8曲からなる組曲ですが、今夜はその中からMarch、WaltzⅡ、DanceⅠの三曲を演奏いたします。オリジナルでは、アコーディオン、ピアノを使用しますが、本日は吹奏楽だけの編成版になります。

ハーツウインズ公演決定!

コロナ禍で殆どのコンサートが中止に追い込まれましたが、やっと9月30日に杉並公会堂大ホールにてコンサート開催が決定しました。プログラムは、こんな時だかこそ原点回帰で、メンデルスゾーンの序曲、ホルスト第1組、第2組を演奏します。またショスタコヴィッチのジャズ組曲2番からダンスとワルツを演奏します。私のトーク付き指揮になります。きっと楽しい有意義な時間になると信じております。