ハーツウインズ第19回定期演奏会

2023年9月28日(木) 19時開演

小金井宮地楽器大ホール

演奏:ハーツウインズ  指揮:大澤健一

⚫︎ジェイガー/シンフォニアノビリシマ

⚫︎バッハ/編曲:伊藤康英/ウインドアンサンブルの為のシャコンヌ

⚫︎ネリベル/二つの交響的断章

⚫︎後藤洋/ウインドアンサンブルの為のソングス

⚫︎ティケリ/交響曲第2番

詳細https://heartswinds.mystrikingly.com/

プログラムノート

ハーツウインズ2023年9月28

こんばんわ。指揮の大澤です。

本日のコンサートご来場まことにありがとうございます。

コンクールシーズンも落ち着き、後は全国大会を残すまでになりました。今年も各地では、小中高生、大学生、一般大人まで実に数十万人もの人々がコンクールに参加、熱い演奏を繰り広げました。日本は世界一の吹奏楽国!!

さて、吹奏楽作品では、作曲者がまだ健在で同時代を活躍していることが多いです。ですから、本人の作品を演奏するときは、作曲家の生身の意見を聞くことができます。

しかし、人間の儚き宿命で別れに接することもあります。日本を代表する世界的な作曲家、西村朗さんの訃報(9月7日享年69才)は、あまりにもショックでした。彼の管弦楽作品は私が東京シティフィル在籍時に演奏したことがあり、同期という事で親しみを感じておりました。そして西村氏は貴重な吹奏楽作品を残しています。課題曲にもなりましたが、「秘儀」という題名で日本人のアイデンティティを表現した作品です。これは、浜松星聖高校の土屋史人先生が長年に渡り、このシリーズをコンクールで取り上げて新たな吹奏楽の可能性を切り拓きました。そこには、作曲家と指導者の尊い信頼関係を感じます。ハーツウインズではまだ演奏していませんので、必ず!と思っております。

ロバート・ジェイガー/シンフォニアノビリシマ

ジェイガー(1939ー)はアメリカの作曲家、音楽教育者、指揮者。テネシー工科大学の作曲科教授。1978年に来日して東京佼成ウインドを指揮しています。私はその時Tuba奏者として参加していました。幸運にも何度か食事に同席させてもらいました。この来日では新作のTuba協奏曲がメインプロでした。ソリストに元世界TUBA協会会長のウインストン・モーリス氏が同行しました。二人ともユーフォニアム奏者の三浦徹氏と大変に親しく、私も同行させてもらった次第です。古い話ですが、この楽しい時間は鮮明に記憶に残っています。

シンフォニアノビリシマ1965年の作品で、ジェイガーが結婚した当時の幸福な生活と希望に溢れた未来を表現しています。ノビリシマとはイタリア語で「高貴な」。邦題は、吹奏楽のための高貴なる楽章。スコアDからの低音主題は、将来に希望を抱く新婚二人のテーマ。中間部Iからは奥様との愛を歌い上げた壮大なラブソング❤️ 彼曰く、「若い頃の話だよ」。写真の通りで、とても陽気で、好奇心の強いお茶目なお方という印象でした。おトイレ行く時は“Square Banjo“と連呼していました。

愛のテーマ

代表作    交響曲第1番、第2組曲、第3組曲、ダイヤモンドバリエーションズ、ロベルト・シューマンの主題による変奏曲、黙示録、交響曲第2番「三法印」、ジュビラーテ、Tuba協奏曲、吹奏楽のための協奏曲、ヒロイック・サーガ、第1組曲、Mystic Chords Of Memory他。2018年には交響曲第3番を発表。現在84歳で活躍中。

普門館の壁際に、映り込んでいました。CDジャケットより

バッハ編曲:伊藤康英ウインドアンサンブルのためのシャコンヌ

大バッハの歴史的な有名曲を吹奏楽に編曲する。これは重要で貴重なチャレンジです。この大仕事を日本で一番忙しい?信頼できる!作曲家、伊藤康英氏が完成させました。伊藤康英氏の全ての音楽知識と才能によって、バッハのシャコンヌが吹奏楽作品として新たなる生命が与えられたのです。

彼の代表作「ぐるりよざ」は日本の吹奏楽作品として世界的レパートリーなりましたが、すでに100曲を超える吹奏楽作品があります。素晴らしい実績です。また他に器楽曲、声楽曲、管弦楽、オペラなど幅広いジャンルの作品があり現在の日本を代表する作曲家です。現在、洗足学園音楽大学教授として作曲、指揮、講習などで日本中で活躍しています。

作曲者自身の楽曲解説から

ウィンド・アンサンブルのためのシャコンヌ(2017年版)

1988年に抜粋版を作ってから30年近くたち、ようやく全曲版編曲完成と相成った。バッハの「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調BWV 1004」の終曲を飾る「シャコンヌ」は、多くの作曲家を刺戟し、J.ブラームス(1833-97)の(左手のみによる)ピアノ編曲、はたまた斎藤秀雄(1902-74)によるオーケストラ編曲など、さまざまな編曲がある。とりわけ、F.ブゾーニ(1866-1924)によるダイナミックなピアノ編曲は、バッハ作品の再創造として、広くレパートリーとなっている。そう、それこそが「編曲」なのだ。原曲の持ち味からの新たな創造。ならば、吹奏楽ならではの色彩を生かしたものが作れないか、と考えたのがきっかえだった。冒頭部分はトロンボーンのアンサンブルで、と、畏友である渡部謙一氏(現・北海道教育大学)の一言でアイディアがわき、ブゾーニ版を参考にしつつシェーンベルクの音色旋律ふうな処理による細かいオーケストレイションを施した。

なお、この作品はほぼ黄金分割比で成り立っている。最初の短調部分と続く長調部分の比、そして、その長調部分と最後の短調部分の比、これらが黄金分割に近い。(したがって、長調部分に入る段階でほぼ半分)。1988年版は、各部分をさらにほぼ黄金分割比に従ってカットしたものであった。4小節を単位として数えると全部で34回。原曲は64回。ただし今回の版は「全曲」版ではありながら、分割比を保つために若干のカットを施し、全部で61回とした。

ヴァーツラフ・ネリベル/二つの交響的断章

世界第2次大戦の戦禍に翻弄された作曲家ヴァーツラフ・ネリベル(チェコ出身1909-1996)幼少期は礼拝音楽で育ち12歳でオルガニストを務め、作曲、理論を早くから習得。チェコ大学とプラハ音楽院で優秀な成績で音楽を学びました。しかし戦禍のナチスドイツの強制から逃れるためスイスで作曲活動をします。ネリベルはヨーロッパにおいて管弦楽曲、バレエ曲、オペラ、室内楽の作曲家として認められ楽譜も出版されます。やがて帰国を希望してプラハで音楽活動をします。しかしドイツ敗戦後ソ連共産主義に支配されるプラハでは自由に音楽活動が出来ません。西側の理解者の協力を得て、音楽の仕事を安全に継続するために渡米します。

1957年アメリカに移住し大学で教鞭をとりながら音楽の仕事を行います。1963年ある出版社の勧めで、音楽教育者会議の全米大会を見学、大学生が演奏するパーシケッティ作曲の『ページェント』を聴いて触発され、すぐに吹奏楽に興味を抱きます。最初に初心者が演奏することを想定した教育的な作品を発表。それがきっかけで第一線のバンド指導者たちから作曲の委嘱が始まり、1965年《コラール》《トリティコ》《シンフォニック・レクイエム》、66年《プレリュードとフーガ》《交響的断章》などの個性的で優れた作品で吹奏楽界に衝撃的なデビューを果たしました。これらは現在人気作品として世界中で演奏されています。特に「交響的断章」の人気が高く、全米中の学生バンドで演奏されている事を知ったネリベルは、さらに高度なテクスチュアを使ったウインドアンサンブル作品1969年《二つの交響的断章》 を発表。ネリベルはこれらの功績により1978年全米吹奏楽協会が吹奏楽のオスカー賞として設定した吹奏楽アカデミー賞を受賞しました。80年代には、さらに高度な技術を要する楽曲《復活のシンフォニア》《クロノス》《カントゥス》などを発表しました。

ネリベルの個性的なリズムやハーモニー音楽のルーツはプラハで培わられた教会音楽やヨーロッパ土壌にあります。自分が生まれた土地、その環境から作品が生まれるのですね。

作曲者の楽曲解説

この楽曲は、対照的な二つの楽章から構成されており、すべての主題的要素は、第1楽章の冒頭で提示される以下の4音からなる動機に基いている。

第1楽章は、基本的に遅いテンポで進行し、主題が演奏される場面と木管楽器の独奏を中心とする場面とが交互に表れる。独奏部分は、主要主題に由来するものではなく、自由で即興的に展開される。

後藤 洋ウインドアンサンブルの為のソングス

ウインドアンサンブルとは、各パートは一人の奏者、重複しない編成のアンサンブルの事。これにより各奏者の音色、ニュアンスが生かされた演奏が可能になる。フレデリック・フェネル博士が1950年代に提唱し、イーストマン・ウインドアンサンブルによる作品の紹介と演奏で貴重な録音を残しています。現在までに彼の提唱に呼応した米国の作曲家によるウインドアンサンブル作品が多く書かれました。ロン・ネルソン、シュワントナー、ギリングハム、ドアテイ、ティケリ、レイノルズ、マクティ。後藤洋氏もその一人ですが、シンディ・マクティなど米国作曲家の元で研鑽を積み、現在は昭和音楽大学教授としてウインドアンサンブル作曲と音楽教育を専門として活躍しています。日本管打・吹奏楽学会にて2000年度吹奏楽アカデミー賞(研究部門)を受賞。

ウインドアンサンブルの為のソングスは2011年ABA(米国吹奏楽指導者協会)にて日本人初のオズワルドを受賞しています。

作曲者の解説から(2010年出版解説より)

さまざまな方向からさまざまな異なった音楽が聴こえてくる、そんな音楽体験を目指した曲を、ここ数年書き続けています。『バンド維新』のために書き下ろしたこの《ソングズ》もそのような作品のひとつで、バンドのメンバーひとりひとりがソリストとなって、シンプルな旋律を(あるいはその断片を)自由に奏で、それらが立体的に重なり合うことをコンセプトとしています。

これは奏者の個性を全体に埋没させて「ずれないように、はみ出さないように」合奏することを尊重しがちな、日本のアマチュア吹奏楽へのささやかな問題提起でもあります(もちろん、全員が終始ばらばらに 演奏するわけではなく、一緒になる場面もたくさんあるのですが)。さまざまな「ソング」は、実際には静と動の2種類。いずれも冒頭のクラリネットの旋律を 母体としています。これらの「ソング」が時に対比され、また時には重なり合いますが、最後まで完全に調和することはありません。

「ひとりひとりがソリスト」ですから、ひとつのパートをひとりずつ、合計24人で演奏されることを想定しています。

フランク・ティケリ交響曲第2番   

フランク・ティケリ(米国出身1958ー)現在南カルフォニア大学の作曲科準教授で、多くの人気吹奏楽作品があります。中でもJazzの要素を用いた作品ブルー・シェイズ、ワイルドナイツなどが有名で、私も過去に国立ウインズ、洗足ウインドシンフォニーなどで指揮をしました。

交響曲第2番は、2006年のウィリアム・D・レヴェリ記念作曲コンテスト(NBA全米吹奏楽協会開催のコンクール)でグランプリを受賞。また2021年の同コンクールにて、永遠の光(Lux Perpetua)がグランプリを受賞しています。このコンクールでの過去の主な受賞曲:コルグラス/ナグアルの風、ネルソン/パッサカリア、グランサム/サザンハーモニー、スパーク/宇宙の音楽、マッキー/オーロラの目覚め、ワインダークシーなどが有名です。

ティケリの音楽の源は何だったのでしょう、インタビューに答えた記事から

「幼少期にニューオリンズで伝統的なジャズに触れたことが、初期の大きな影響となりました。それ以来、影響を受けたものは枚挙にいとまがないほどです。」

作曲者の解説から

交響曲の 3 つの楽章は、天上の光、月、太陽を表しています。

第1楽章「流れ星」Shooting Starsのタイトルは完成後に付けられたものですが、創作の過程ではずっとそのような色の瞬きを想像していました。白鍵音のクラスターが、明るい光の筋のように、いたるところに散りばめられています。Ebクラリネットがメインテーマを叫び、低音の金管がスタッカティッシモの和音を打ち出し、ダンスのような躍動感があります。さまざまな種類の一瞬の出来事が予期せぬ瞬間に切り貼りされ、耳を釘付けにします。この動きは急速に燃え上がり、ほとんど跡を残さず爆発的に終わります。

第2楽章「新月の夢」Dreams Under New Moonは、一種の魂の旅を描いています。ブルージーなクラリネットのメロディーに、ミュートのトランペットとピッコロによる聖歌のようなテーマが応えます。神秘的なものから暗いもの、平和で癒しのものまで、さまざまな夢のエピソードが続きます。上昇するラインが楽器から楽器へと受け継がれていくにつれて、希望の感覚が主張し始めます。音楽が高揚し、変調に次ぐ変調が発生します。終わり近く、主題が聖歌と対位法で戻り、壮大なクライマックスを迎え、その後穏やかなコーダに落ちます。最後の変ロ長調コードは、疑問を投げかけるような変ロ長調によって彩られています。

3楽章「解き放たれたアポロ」Apollo Unleashedは、壮大な楽章であり、言葉で伝えるのが最も難しい楽章です。古代の太陽神であるアポロンのイメージは、タイトルだけでなく、その燃えるようなエネルギーにもインスピレーションを得ました。明るい響き、速いテンポ、疾走するリズムが組み合わさって、交響曲のフィナーレに相応しい緊迫感。その一方で、崇高なバッハのコラール BWV 433 (Wer Gott vertraut, hat wohl gebaut) によって和らげられ、音楽が豊かになります。このコラールは私のお気に入りであり、精神的な支えとして音楽に魂を与えます。