ジャンニー二がリードとコリリアーノに伝えたこと

 

 大澤健一 

ハーツウインズ音楽監督



アルフレッド・リード  Alfred Reed (1921-2005)
日本で最も演奏される吹奏楽作曲家であり、ジャンニーニの門下で大きな成功を収めた一人です。ジュリアード音楽院でジャンニーニに師事し、音楽の「論理的な構造」と「オーケストレーションの極意」を学びました。リードが持つ重厚な和声感覚は、まさに師譲りのものです。
師から学んだ高度な技術を、誰もが親しめる「劇的な表現」で生涯250曲を超える作品を遺し、世界中のアマチュアからプロまでが愛する「吹奏楽のスタンダード」を確立した功績は計り知れません。
リードの「イタリア的な旋律とドイツ的な管弦楽法」というスタイルは、まさにジャンニーニの教えを忠実に継承したものです。二人の関係は単なる師弟を超え、音楽的DNAの継承そのものでした。

リードがジャンニーニから学んだこと、リードは生前、師について多くを語っています。

 

旋律こそが音楽の魂である
ジャンニーニは「たとえ現代的な手法を使っても、歌(旋律)がなければ聴き手の心には届かない」と説きました。今回のオセロ三楽章の緩徐楽章などで見られる、あの心を揺さぶる旋律美は、ジャンニーニのイタリア的叙情性の教えから来ています。
完璧な職人技(対位法)
リードのスコアは非常に整理されており、どの楽器も効果的に響くように書かれています。これはジャンニーニによる厳格な対位法と管弦楽法のトレーニングの賜物です。
吹奏楽への敬意
当時、多くの「本格的な」作曲家が吹奏楽を一段低いものと見ていた中、ジャンニーニは吹奏楽を芸術として真剣に扱いました。この姿勢がリードに「吹奏楽専門の作曲家」として生きる自信を与えました。
リードは師の死後もジャンニーニを深く尊敬し続け、ジャンニーニの『交響曲第3番』などの普及に努めました。リードの洗練されたオーケストレーションは、まさに「ジャンニーニがもし現代に生きていたら、このように吹奏楽を書いただろう」という理想形を具現化したものと言えます。
音楽は知的な遊びではなく、感情の伝達である
このジャンニーニの言葉は、リードを通じて、現在も世界中の吹奏楽指導者や作曲家に大きな影響を与え続けています。

 


ヴィヴァ・ムジカ!

VIVA MUSICA!   A Concert Overture for Winds

 

曲名はラテン語で「音楽よ、万歳!」を意味し、輝かしい金管の響きがコンサートの幕開けを華やかに彩ります。作品は、ヴァンダークック音楽大学からの委嘱により作曲されました。これは同大学にとって初の委嘱作品であり、「音楽教育という分野で日々研究活動するすべての人々に捧げる」と述べています。

初演は1983年12月16日、シカゴで開催されたミッドウェスト・ナショナル・バンド&オーケストラ・クリニックにおいて、作曲者自身の指揮によるヴァンダークック音楽大学シンフォニック・コンサート・バンドによって行われました。

楽曲は、ファンファーレ、スケルツォそして独特なリズムの叙情的な旋律が組み合わさって、喜びにあふれた響きで締めくくられます。リードは音楽を教えることの喜びをこの曲で表現しました。


オセロ -シェイクスピアに基づく5つの場面による交響的描写
Othello — A Symphonic Portrait in Five Scenes after Shakespeare

 

シェイクスピアの悲劇をもとに書かれたリードの代表作。他にシェイクスピアを題材にした「ハムレットの音楽」「魔法の島」「十二夜」があります。当初はマイアミ大学リング劇場での「オセロ」上演のために16人の金管と3人の打楽器のために14曲の劇伴音楽を書きました。後にバンドディレクターのウォルター・ビーラーがこの劇伴音楽を非常に気に入り「吹奏楽の為の組曲」として再構成することをリードに進めました。1977年にビーラーの熱意にこたえて吹奏楽版が完成しました。スコアの冒頭には1973年に亡くなった彼を偲んで、彼への献辞が書かれています。

人間の愛情や嫉妬心を色彩豊かなオーケストレーションで描き出します。吹奏楽ならではの重厚な響きによるドラマ性とリード特有の歌心に溢れた傑作です。

師のジャンニーニはシェイスクピアを題材にしたオペラ「じゃじゃ馬ならし」を書いています。


I.前奏曲(ヴェニス)Prelude (Venice)
“The tyrant custom, most grave senators, hath made the flinty and steel couch of war my thrice-driven bed.”
「元老院の諸君、過酷な習わしというものは、私にとっては、戦場の冷たく硬い寝床をも、最高級の羽毛の寝床に変えてしまうのだ。」
ベニス公国の傭兵隊長であるオセロが、自身の武人としての自負を語る第1幕第3場の台詞です。音楽は、力強い金管の響きによってオセロの勇壮な性格と、デズデモーナとの駆け落ちという緊迫した幕開けを描き出します。

II. 朝の音楽(キプロス)Aubade (Cyprus)
“Good Morning, General.”
「おはようございます、将軍」
舞台は地中海のキプロス島へ。戦地での束の間の平穏を祝うように、オセロの窓下で奏でられる明るく軽快な音楽です。木管楽器の色彩豊かな響きが、南国の爽やかな朝を演出します。


III.オセロとデズデモーナOthello and Desdemona
“She loved me for the dangers I had passed, and I loved her that she did pity them.”
「彼女は私がくぐり抜けてきた危難のゆえに私を愛し、私は彼女がそれを憐れんでくれたゆえに彼女を愛した。」
全曲の白眉となる抒情的な楽章です。二人の深い愛の絆が美しい旋律で歌われます。しかし、この後に待ち受けるイアーゴーの狡猾な罠が、この幸福を静かに蝕んでいくことになります。


IV. 廷臣たちの入場 Entrance of the Court
“Behold, the Lion of Venice!”
「見よ、ヴェニスの獅子を!」
ヴェニスからの使者を迎える華やかなファンファーレと行進曲です。「ヴェニスの獅子」とは勇猛なオセロを象徴する言葉ですが、ここではイアーゴーの皮肉な嘲笑が含まれています。祝典的な響きの裏側に、崩壊へと向かう不穏な影が忍び寄ります。

V.デズデモーナの死、終曲 The Death of Desdemona; Epilogue
“I kissed thee ere I killed thee: no way but this…”
「殺す前に接吻した。こうするよりほかに道はなかった……」
疑念に狂ったオセロが、最愛の妻を手にかけた絶望の場面です。深い悲しみに満ちた音楽は、やがて全てを悟り自害するオセロの魂を弔うかのように、重厚かつ静謐な幕切れを迎えます。



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